1.0はじめに
国際関係論とは、国際ニュースで紹介されるような様々な出来事に対して説明を試みる学問領域です。よく扱われるテーマは
・戦争や紛争
・選挙
・国家間の協調
・国連などの国際機関の役割
・先進国と途上国の格差
・移民問題
・グローバル化
などなど、多様に存在します。
これらの多様なテーマに対応するように、国際関係論には様々な理論があります。しかしながら、国際関係論の主要な理論は国家の行動の説明を主眼としたものです。「なぜある国家は戦争するのか?」、「なぜこのタイミングで国家間の和平が成立したのか?」、「国際機関は国家の行動にどのような影響をもたらすのか?」というようなことが主題です。
したがって、この解説記事では、そんな国際関係論を理解するための導入を行います。具体的には国際関係論全体に共通する考え方や歴史的背景を紹介し、その後主要な三つの理論を紹介します。
2.0国際関係論とは何か
本章では、国際関係論の主要な理論の導入として、それらが共通して目指すものや、理論の対象、その歴史的背景を紹介します。
2.1目指すもの
国際関係論が目指すものとして、「複雑な国際情勢の見通しをよくする」ことが挙げられます。
国際情勢では様々な要素が複雑に絡み合います。国家同士の関係、各国の国内情勢、世界経済の状態、時代精神、指導者の資質…などです。しかし、それらをひとつひとつ検証することはまず不可能なので、見通しをよくするための理論が必要になります。
より具体的には、理論とは、「ある出来事はなぜ起きたか」、「その出来事はどのような意味を持つのか」ということを説明するための枠組みです。これによって、国際情勢に関する個別的な情報や知識を一般化して、分析を容易にしたり、考えを深めたりすることができます。
上記の理論の説明は、国際関係論に限定されるものではありません。理論とは現実から重要な要素を選択することで、事象のより簡素で明快な説明を目指すものです。国際関係論というのは、その理論の対象を国際情勢の様々な事象やアクター(行為主体)に適用したに過ぎないとも言えます。
また、これは多数派の考えではないですが、未来予測を国際関係論の役割とみなす論者もいます。
理論を未来予測に使うことで、現在の政策の問題点を明らかにしたり、現状の国際情勢の見通しをよくすることが目的です。とはいえ、この立場を取る論者も理論による国際情勢載せt名を重視していることには変わりがありません。未来予測と実際に起きた現象を比較することで、自分の理論の正確さの証明をすべきだという考えです。
2.2対象
国際関係論では、分析対象の類型として3つのイメージが使われます。
・ファーストイメージ:指導者や該当する地域・時代に特有のメンタリティが国家の行動に及ぼす影響の分析
・セカンドイメージ:政治体制や地理などの国内要因が国家に与える影響の分析
・サードイメージ:複数の国家からなる国際システムが国家に与える影響の分析
この3つのイメージからもわかる通り、国際関係論は基本的には「国家の行動」を分析の対象にします。NGOや企業などの非国家的主体を分析対象とする理論ももちろんあります。しかし次節で説明するように、国際関係論は「国家の行動」の分析から始まりました。そのため、やはりそれが理論の主流になっています。
ファーストイメージ的な考え方としては、以下が挙げられます。
・第一次世界大戦の原因はドイツ皇帝をはじめとする指導者らの好戦的姿勢に原因があったとする見方
・第二次世界大戦の原因を、ドイツ人の権威主義的性格やアドルフ・ヒトラーの性格に帰する見方
ファーストイメージは、指導者の属人的な資質を事象の説明に使うため、今日ではメインの議論対象にはなっていません。しかしながら、指導者の資質や個人のメンタリティが国家の行動に何の影響を与えなかったと考えることも非現実的であり、いまだ国際情勢の分析に重要な要素であると言えます。
セカンドイメージは一言で言えば、「国益」です。「国益」を決定するのは各国が置かれた状況や国内の環境ということになります。したがって、何が「国益」かは国によって異なることになります。また、「国益」の獲得のための行動には、行政機構が機能するかどうか、リーダーシップは十分か(政権を取れているか)ということも重要です。
セカンドイメージは特にリベラリズムとコンストラクティビズムという理論に関わります(次章で紹介します)。
サードイメージは国際システムに関わります。国際システムとは、相互に影響し合う複数の国家の集合体で、各国の行動に影響を与えるものです。たとえば、現状の国際情勢は世界政府が存在しないところに、複数の国家が集まっている国際システムと考えることができます。このような状況では、各国家は自国の安全や福祉を向上させるよう促されます。
サードイメージは特にリアリズムという理論に関わります(次章で紹介します)。
2.3歴史的背景
次章では、リアリズム・リベラリズム・コンストラクティビズムという国際関係論の理論を紹介します。理論の説明の前にその歴史的背景を紹介します。というのも、リアリズムとリベラリズムは国際関係論の設立とほぼ同時期にできた理論であり、コンストラクティビズムは比較的最近の理論ながら、新しいパラダイムを開く理論であり、現在の国際関係論を象徴すると言えるからです。
国際関係論の前史として、国際情勢に関する政治思想の議論がなされていました。それは以下の2種類に分けることができます。
・リアリズムにつながるもの:マキャベリやホッブズに代表される欲望や感情のせいで闘争は不可避だという議論
・リベラリズムにつながるもの:ロックやカントに代表される理性が協調を可能にするという議論
思想史的な前史は以上のものです。国際関係論が学問として設立された歴史的背景は、第一次世界大戦でした。この未曽有の事態を受けて、ヨーロッパの知識人は2つのグループに分かれます。ひとつ目のグループは「どうやったら国際平和を達成できるのか?」と考えたグループです。このグループが国際関係論のリベラリズムを作っていきます。2つ目のグループは「なぜ(第一次世界大戦のような)大戦争が起こるのか?」と考えたグループです。このグループはリアリズムという理論をつくります。同じ第一次世界大戦という事態に直面したときの、課題意識の違いがリアリズムとリベラリズムの違いとなります。
このような経緯で生まれたリアリズムとリベラリズムは、戦後には国際関係論の二大潮流になります。しかしながら、その影響力にも関わらず冷戦の終結を予測および説明ができませんでした。
それに対して、コンストラクティビズムは冷戦終結の説明に成功したため、影響力を高め、リアリズム・リベラリズムに並ぶ潮流となります。
次章では、これらの理論がどのようなものなのか説明します。
投稿者プロフィール

- プロフィール: 2025年4月から人文系の大学院生。学部時代は国際関係論を専攻。贈与経済に関心があり、柄谷行人『力と交様式』、近内悠太『世界は贈与でできている』、荒谷大輔『贈与経済2.0』などが愛読書。
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